25  崩れる

 涙雨とはまさしく。



 雨まじりの空模様の中しめやかに始まった葬儀は、滞りなく執り行われた。
 泣きじゃくる木の葉丸の声が痛い。
 それを抱き締めるイルカの横顔も。
 だが葬儀を終えると、木の葉の里はまた逞しく動き出した。
 里を潤わせる為、そして木の葉の体力が低下したと依頼者や他里の忍に足元を見られぬ為に、任務依頼は積極的に受け続ける事に決定され、まさに総力戦の様相を呈した。
 一方で他里の動きを警戒する、きな臭さの抜けない毎日が続いた。



 アスマと紅と三人で任務終了の報告へと足を向けた。
 下忍の任務時間の都合や新人下忍の班同士組んでの任務もままあったので、上忍師を拝命してから三人で集う事が多かった。
 里への侵入者の追跡を今日も無事にこなし本日の業務はこれにて終了。後は緊急の招集が掛らぬ事を祈り、晩飯の中身を心配するだけだ。
「ラーメンか」
紅が遠くに見えるラーメン屋を見て呟いた。ラーメン一楽。
「飲みたくなってきたわ。ラーメンはシメで」
「シメにラーメンなんざ太るぞ」とアスマ。
「そう思って最近控えてるの。でも飲んだ後はやっぱりトンコツだわ」
奇麗な顔に似合わぬ発言を平気でするものだと、カカシは半ば感心した。
「あ〜ん? ラーメンは塩だろ。くどいぞトンコツ」
そしてこちらは、ゴツイ身体であっさりか。
「カカシは?」紅が話を振ってきた。
「うん。ラーメンといえばナルトとイルカ先生」
「はあ?」

‥‥だってそうなんだよ。俺の中ではナルトとイルカ先生とラーメンでワンセットだ。

「おい、噂をすればアレ。そうじゃねーのか」
「え?」
 アスマが顎をしゃくって示したそこには、凡そ忍とは思えぬ色彩感覚を持つナルトの派手なオレンジ色の背中と、木の葉のベストが並んでいる。暖簾で顔は隠されているが、ナルトの隣に居る大人といえばイルカだろう。それを確認させるかのごとく「イルカセンセーってば!」とナルトの声も聞こえてきた。
 カカシはつい先日イルカがみせた、ナルトへの微妙な反応を思い出した。
 それなのに葬儀の日から数えてまだ数日。二人並んだ姿は何ら今までと変り無く見えた。
「仲良くなったのかな?」
「何言ってんだ。いつも一緒じゃねぇか」
アスマが煙を吐き出した。
 遠ざかっていく一楽の暖簾を、カカシは名残惜しく見送った。
 伝説の三忍と称される自来也から、火影への就任要請の為、これまた三忍の一人綱手姫の探索に出ると聞かされたのはつい先日。
 それに修行を兼ねてナルトを連れて行くと告げられても、こちらには否も何も無い。自来也にはナルトを中忍選抜試験三次本選まで預かって貰っていたし、そしてその成果は予想以上だったから尚の事。
 九尾のチャクラを己の意思で引き出せるようになったのに加え、口寄せの妖獣の中でも最高位近くに位置するガマの妖獣を使役獣にしたと聞いた時は、正直そこまでと驚いた。口惜しいが自分ではこれ程短期間のうちにナルトの力を引き出すことは到底無理だっただろう。
 少々急ぎ過ぎなのではと危惧したが、
「自分の背中に絶えず気をつけて生きていかなければいけない」
そうカカシを諭した自来也の言葉に間違いはない。あの二人のこれからを何と端的に表している事か。そう思えば自来也の修行に異論を挟む余地など何処にもなかった。
 忍として一人前扱いされても、まだ駆け出しの彼等。だが既に背負っているものの重さを考えれば早く一人立ちさせてやりたい。先にエビス特別上忍にナルトを預けようとした時とは既に状況が異なる。自分も自来也に任せるの最善だと判断したのだ。サクラも含め、まだそれぞれ自分の手で育てやりたい気持ちはあるが状況がそれを許さない。

‥‥‥文句つけるどころか、有り難い話しなんだけどネ〜。

 そのはずだった。がそれを手放しに喜べなかったのは、どうした訳だろうか。
 両手をポケットに入れたまま、カカシはむっすりとしながらアスマと紅の後を歩いた。
 同じような事を誰かがこぼしていた気がした。


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