13 嵐の前

 下忍としてナルトは一歩を踏み出した。



 ナルトの下忍認定と同時にアカデミーの職を解かれるかもしれないとイルカは思っていた。
 生徒を預かる責任の重みに身震いする自分が常にある。
「忍になる」そう自らの人生を定めた生徒達とはいえ、その手に自らの命を守る為の、そして同時に他人の未来を奪いかねない技術と意識を与えていく事に立ち竦む自分がいる。それが明るい場所で笑顔とともに堂々と行われているのに不意を突かれる。
 自分が教えを乞う立場の頃は思いもしなかった。
 これは任務だ、自分は教師だと頭では分かっていても、懲りずに自問自答の落とし穴に落ちては這い出してを繰り返す。もっと生徒達に何か教えてやれる筈だと意気込みながらも消化不良のまま時が過ぎるのに歯がゆくもなる。そんな自分にはアカデミーは荷が勝ち過ぎると感じてきた。だから教職への未練がありながら、古巣の諜報部への復帰の希望が相半ばしていた。
 ところが待っていたのは諜報部への復帰命令ではなかった。
 アカデミーの仕事と平行しての任務受付所での受付業務、ついでに三代目の私的遣い走りといった内勤を正式に任命された。
 その任に不覚にも「へ?」と間抜けた返答をしてしまったイルカは、アカデミーの専属でいたいとも、諜報部への復帰をとも言い出せぬうちに、あれよあれよという間に任務受付所の席に座らされていた。
 専任の文官と机を並べながら、報告書の確認や査定、依頼任務の審査と慣れぬ仕事が押し寄せる。加えて三代目の遣い走りは機密文書の配達から個人的な季節の便りに、果ては茶菓子の買い出しにまで。これはあんまりだと文句をつけると、賄賂として限定高級菓子で懐柔されたが、兎に角多忙を極めた。
 三代目にそれとなく自分の人事について鉾先をむけてみたが、それも人手不足の一言で片付けられた。任務受付等の内勤業務はナルトとの接点を継続させていく含みがあるのを感じたのも確かだが、すぐに「木の葉丸はよくやっとるかの」と聞かれたので、もしかしたら木の葉丸の様子を知りたいがために自分を側に置いのかもと少々複雑な気分になったのも記憶に新しい。
 ただ、下忍として活動し始めたナルトを見るのは単純に嬉しかった。
 里の一端を担う忍として働くナルトは、アカデミー生の頃よりも数段活き活きとしている。身ぶり手ぶり付きで説明される「大活躍」は、よくよく聞けば空回り気味なのは否めないとしても、張り切って任務に向かっている。イルカが出会った当初に比べれば天と地程の差だ。ナルトを卒業させて良かったと改めて思った。
 ナルトは忍としての一歩を歩み始めた。
 農作業の手伝い、失せもの探し。子守りに買い物、大掃除。
 体力と根気のいるものばかり。新人下忍の受ける任務はまずこんな感じだ。
 疲労困ぱいの態の下忍三人と、その後ろからのんびりとついていく上忍一人。
 里のあちらこちらでそんな四人の姿を見慣れた頃、彼等は初のCランク任務を受け、波の国へと旅立ていった。


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