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アンコちゃんの想い人は誰だ。
いつまでたってもアンコは相手の名前を言わない。 それでもアンコの話から断片的な情報は入る。 尋問部所属、背が高い、顔に刀傷、妻子無し。 「そんなヤツいっぱいいるんだよなー」イルカは独り言ちた。 やっぱり気になるとばかりに、イルカはアンコには内密に尋問部所属の人間をリストアップした。 ‥‥部外秘の尋問部人員構成も元諜報部のイルカ先生にかかればチョロイもんよ。 アンコにギャーギャー騒がれても相手にしないでいられる程の実力者となると、やはり特別上忍以上だろうか。難しいのは顔の刀傷以外どんな顔かという情報が無い事。覆面や包帯を装着されると傷が特定されない場合も多い。 「笑った顔が、カワイイの‥‥か」 これはどう判断すればいい? 男の笑った顔が可愛い? 個人の主観は扱いも微妙だ。惚れた欲目も多分にあるだろうに。 ‥‥でもアイツ、結構面食いだったような。 何人か目星をつけたが確証が無い。下手に動いてアンコにばれるのも怖い。 ‥‥だけど勝手に応援してやるぞー。 イルカはアンコに悪いと思いつつも、アンコのお相手を探すのが楽しみになってきた。 三代目の執務室でアカデミーの書類に決済を貰う。 ポン、ポン、ポン。 三代目の判を押す音と紙をめくるかすかな音が執務室を占めている。イルカは三代目の側で作業の終わりを待っていた。 それももうそろそろ終わりかという頃、 「失礼します」 尋問部総部隊長の特別上忍モリノイビキと、上忍はたけカカシが入室してきた。 カカシの姿にイルカは軽く会釈をし、カカシもイルカを認め微かに目元を綻ばせた。 「ご報告に上がりました」 そう言ってモリノ特別上忍がイルカに目を走らせた。 言外に席を外せと告げられ、退出する素振りをみせるイルカに、三代目は「そのままでよい」と止めた。それでは報告が終わるまでせめて、とイルカは三代目の遥か後方に控える。 ‥‥大物同士の任務か。任務内容凄そう。 暢気にそう思っていたイルカは、モリノ特別上忍の纏う尋問部の制服にアンコの片思いの相手の事をふと思い出した。 ‥‥尋問部か。うーむ。 イルカがつらつらと考え事をしているうちに、どうやら報告は終わったようだ。ピシリとした空気が穏やかに変化している。三代目の表情はこちらから伺う余地もないが、モリノ特別上忍とカカシの様子から和やかさが伝わる。否、カカシのリラックス加減はいつものことか‥‥。 イルカは見るともなしに二人を見た。 「では、これで」 退出しようとしたモリノ特別上忍に三代目が声をかけた。それにニカッとイビキ特別上忍が笑って応える。 途端、厳しくいかつい顔が一挙に崩れた。形ばかり育った子供のような邪気の無い笑顔が広がる。 ‥‥えっ!? あっ!? イルカの脳内に走馬灯が、もとい今までバラバラだった情報の断片が駆け巡った。 ‥‥尋問部所属、背が高く顔に刀傷、アンコに物を言わせぬ実力者、笑った顔がカワイイ。それってもしや? 「モリノ特別上忍!?」 イルカの突然の叫びに一斉に皆の視線が集まる。 一拍置いてから、イルカは己が叫び声をあげていたのを知った。顔が赤くなるの感じなががらイルカは慌てて頭を下げた。 「すっ、すみません」 「なんじゃ、イルカ。イビキがどうかしたかの」三代目が訝し気に訊ねた。 「いえっ!」 「では何を叫んでおる」 「その、あの、えー」 うまい言い訳が見当たらない。イルカは焦った。 「その‥‥笑った顔が、カワイイなっと‥‥」 無理矢理理由を捻り出したイルカが「ハハッ‥‥」と乾いた笑いを浮かべると、そこには胡乱な顔でイルカを見る三代目と、口が開いたままのモリノ特別上忍。そして唯一見える目を真ん丸くしているカカシの姿があった。 |