03

アンコちゃんの恋は片思いだ。





「アイツが、くの一を尋問してた」
「仕事だろそれ」
イルカがばっさり切って捨てる。
 アンコ特別上忍が頻繁に手みやげつきでイルカの前に姿を現すようになったのは、片思いの相手についてイルカに話すためだ。
「聞いてもらってすっきりしたいだけ。相談してんじゃないの」
しおらしく言うアンコに絆された時点でイルカの負けだ。それでも、何で俺なんだ女友達いないのかとイルカが聞くと、
「アンタはあたしの子分だからよっ!」と一喝された。
「それが、木の葉に潜入してたくの一なんだけど」
「おい、いいのか? そういうの守秘義務あるだろ」イルカは思わず注意した。
「大丈夫よ。それでこれから尋問するってとこに出くわして、見たら相手がくの一じゃない。何か間違いがあったら困ると思ってついて行く事にしたのよ」
「ついてくって、それ職権乱用だろ。いやオマエ尋問部じゃないし」
「いいのよ! あたしは特別上忍よ。文句ある?」
「特別上忍なら関係ない尋問に立ち会っていいのかよ」
「いいの! ったくイルカの頭固いのは相変わらずね。そんなんだからまだ中忍やってんのよ!」
「それこそ関係ないだろっ!」
座っていた椅子をガタガタと蹴倒し、いきり立つ二人。お互い痛いところをつつかれて鼻息も荒くなってしまったが、気持ちを切り替えたのはアンコが先だった。
「でね。その肝心のくの一ってのが、なんかも〜やたらくの一なのよ。なんていうかさ、ほら! 出てんのよフェロモンが! ガーッと」
フェロモンってのはガーッとは出ないだろう普通、というイルカの発言は完全に無視された。
「助けてくれたら何でもするとか言い出すかもしれないじゃない」
「阿呆かお前」
イルカもいい加減付き合いきれない。
「そんなんで絆される尋問部があるか。仕事にならないじゃねーか。大体尋問は一人でするもんじゃないだろうが」
 任務はスリーマンセルが基本。尋問もまた然り。
 中忍となった時点で様々な訓練がある。対尋問訓練もそのひとつで、これを拒否すると中忍資格剥奪となる為どんなに嫌でも欠かせない。もちろんイルカも訓練済み。嫌な思い出だ。
「そうだけどさ」
「だったら何心配してんだ」
尋問について行くと言い張るアンコは結局尋問室の前で追い返されたらしい。あたり前だ。
「それで邪魔だって猫の子摘むようにして部屋の外に捨てられたの! ポイッって!」
あ〜も〜クヤシイ! というアンコの嘆きをイルカは無視した。
「仕事の邪魔だからだろ。それじゃアンコの方が嫌がらせしてるとしか思えねぇよ。オマエさ、そんなんじゃ相手に伝わらないぞ」
「ナニがよっ!」
「お前の気持ち」
途端に、しゅんとアンコが項垂れる。甘味の食べ過ぎで上昇し過ぎたと思われるテンションも急降下だ。
「回りくどい事やってないで、好きですとか言っちまえよ」オマエそこそこ可愛いしとイルカは心の中で付け加える。
 アンコは性格こそ男勝りだが、勝ち気な目はくりくりと大きく丸顔はキュートだ。ついでに胸はかなり大きい。キュートな顔に大きい胸とくれば大概の男はそれで文句無しだろうとイルカは思う。イルカ的には充分だ。
 だが項垂れるアンコにイルカも少々可哀想になってきた。
 子供時分には、散々泣かされても次の日にはまたケロリと忘れて一緒に遊んだ。
 結局イルカはアンコに甘い。アンコも分っていてイルカの許に来る。何せ長い付き合いなのだ。
「さっさと言っちまえよ。アンコ」
 目の前の団子をアンコの変わりに口に放り込んだ。

‥‥こんな商売だ、いつまでも側にいれるとは限らねーんだから。

 イルカの呟きはアンコに届く前に、団子と共に腹の中に飲み込まれた。


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