02

 アンコちゃんは乱暴者だ。






 アカデミー勤務になり里に居着いたイルカはアンコと久しぶりに再会した。
「あれー、イルカー!?」
大きな声に振り向けば、そこには団子片手のアンコ。
「ア、アンコちゃん‥‥?」
イルカの声が裏返った。
「久しぶりー! アンタいつ里に戻って来たのー?」
背ー伸びたのねー良かったじゃない! 今何してんの? 彼女出来たー?
彼女はバンバンとイルカの背を容赦なく叩きながら、矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。
「ヨシッ、あたしのお勧めの店に連れてってあげる!」
そう高らかに宣言し、有無を言わせずイルカを甘味所へと引き擦った。
アンコと会わなかった長い時間も一瞬にして埋まった。と同時に子供の頃の思い出が蘇る。彼女は変わってない、余りにも‥‥。
 そう、イルカとアンコはいわゆる幼な馴染みというやつである。


 イルカの家の近所は同年代の子供達が多かった。
 自然一緒に遊ぶようになるが、その一団の中にアンコちゃんがいた。
 人一倍元気なアンコちゃんは、いつの間にやらイルカ達の集団の姉貴分になっていた。いや姉貴分というより兄貴分かとイルカは思う。
 ここは忍の隠れ里なので、子供の遊びも忍者ごっこが定番だ。
「今日の任務は」
アンコちゃんの任務命令が忍者ごっこのはじまりの合図だ。
「今日の任務は怪獣退治だ」と野良猫を追い掛け回しては、目標を追うのに夢中になり迷子になった。
「今日の任務は森の祠に隠されてる巻き物を探しだ」と侵入禁止指定の森の中に入っては大人達にさんざん怒られた。
「忍者の任務は夜だ」と夜中に神社の境内に肝試しに行っては泣いて帰った。
 アンコちゃんの決定する「今日の任務」がそのまま今日の遊びになる。イルカ達は毎日過酷な「任務」を行っていたのだ。
「そんなのヤダ」なんて周りのブーイングも受け付けない。
一言とで片付ければ「乱暴者」な姉貴分アンコちゃん。そのアンコちゃんとごねる遊び仲間を宥めて間を取り持つのがイルカの役目だった。
「今日は『忍者警備隊デカニンジャー』よ!」
『忍者警備隊デカニンジャー』はアンコのお気に入りだ。
 任務を申し渡したアンコちゃんに、『忍者☆パッタリ君』がいい! と反発の声があがる。
「『デカニンジャー』よっ」
「『パッタリ君』だっ」
 収拾がつかない中、イルカはアンコちゃんに『忍者警備隊デカニンジャー』をやるから隊長のアカニンジャーを諦めさせ、女の子役モモニンジャーで我慢させた。そして他の子達には「今日はちょうど5人だから我慢してよ」と言い包め、好きな色の「ニンジャー」をやらせて機嫌をとる‥‥‥ちゃっかり自分は自分的一番人気のアオニンジャー役を抜け目なく割り振ったが。
 暴走する上司と反発する仲間の間を取り持ち、どちらも立てる人当たりの良さ。イルカの中間管理職の見本のような性格はここで培われたといっても過言ではない。悲しいかな、中忍が似合う男イルカ。
 ついでに付け加えるならば、遊ぶうちに気が付けばモモニンジャーが隊長になっているのはよくある事だった。
 だが、アンコちゃんの遊びが楽しいのは事実だった。
 子供心にも「任務」と言われると心が浮き立った。忍隠れの里の子供は家族や血縁者に忍が多い。イルカの両親もそうだ。当然「任務」という単語を聞きかじる。
 「任務」はイルカ達の憧れだった。
 ちなみに『忍者警備隊デカニンジャー』と『忍者☆パッタリ君』は当時の火の国の人気テレビアニメで、企画・技術指導はもちろん木の葉の全面協力の下に行われた。
「将来の優秀な人材確保の為、木の葉も鋭意努力中じゃった」
とは当時の企画担当責任者、三代目の言である。


 だがアンコちゃんは単なる乱暴者ではなかった。
 早くから忍の才能の一端を示し、アカデミーをトントンと飛び級して、さっさと卒業した。
 まだまだアンコちゃんの武勇伝は続く。
 下忍認定試験のサバイバル演習での事。
「かかってらっしゃい」の担当教官に合図に、「こらー! 行くぞこのオカマッ!」と気を吐き、後に顛末を知った周囲を唖然とさせたらしい。
 既に眉唾ものの話しだが、アンコちゃん伝説の一つである。
 実に恐ろしきはアンコちゃんか。
 そのアンコちゃん、いやアンコ特別上忍が頻繁に手土産つきでイルカの前に姿を現すようになったのには理由があった。
 それはアンコちゃんの片思いの所為である。


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