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アンコちゃんは甘味大王だ。
うやうやしく包装紙に包まれた団子たち。 新商品、抹茶餡団子。 みずみずしさとしっかりとした練りの甘さが何とも言えない。 さすが創業三百年 菓子司亀屋芳信。歴代の火の国の大名に献上され続けてきた味は伝統の重みさえ感じさせる。美味い。 特に毎日限定三十セットしか作られない朝摘み特上茶葉を使用したというこの抹茶餡団子は、餡の甘みと抹茶の深い味わいがお互いを引き立てあう絶妙な逸品である。 だが、何事においてもそうだが、限度というものが人間にはある。 「なによーイルカ、もっと食べていいんだよー」 「いや‥‥俺はもういいよ」 「せっかく朝から並んだのよー、これ」 限定品だしさー、と話すそばから羊羹が手品のように彼女の腹の中に消えていく。 ‥‥並んだのよって、並んだのはオマエの部下だろっ! 三代目のお使いで同じく限定品を買い求める列に並んだイルカは知っている。 里の奥様方に混じり店が開くのをじりじりと待つ木の葉のベストを着た二人。下忍のお使いでもあるまいしと、ぶつくさ文句を垂れていたイルカは、ベストを着たもう一人とはち合わせた。何度目かの遭遇で誰の為の買い出しか、お互い確認済みだ。 これも任務と割り切る自分が悲しい。 「で、アンコ」 気を取り直しイルカは茶をすすった。 「今日はどうした」 アンコは「創業三百年 菓子司亀屋芳信 新製品ラインナップ」と印刷されたパンフレットを見つめながら言葉を絞り出した。 「アイツが‥‥くの一を‥‥尋問してた」 パンフレットにアンコの指がきつくめり込んだ。 またかとイルカは項垂れる。もう何度似たりよったりの話を聞かされただろうか。イルカは溜め息をつきながら、突然アンコが思いつめた顔で己の前に姿を現した日を思い出した。 ある日の昼休み。 食堂に向かう途中だったイルカは、話があるからと、突如現れたアンコにアカデミーの空教室に押し込まれた。昼飯がというイルカの抗議は、アンコ持参の大量の団子と缶入り緑茶で封じられた。 「アンタに聞いて欲しいことがあるのよ」 鬼気迫るアンコに、イルカはウンウンと頷いていた。 それからこの甘味昼食会は続いている。 |