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目は口程にと言うけれど‥‥
よく動く眉だと思った。 普段、男の顔などじっくり見ることもない。 好いた女の顔や身体でもあるましい、何を好き好んでと思う。 でも一度気になりだすと度々その顔を見つめている自分がいた。 初めて気にしたのは、彼がどんな表情をして見せた時だったろうか。 「何か付いてますか?」 俺の顔、とイルカに問われてカカシは自分がイルカの顔を凝視し続けていたことに気付いた。 「あ、ああ〜、ぼんやりしてたみたいで」 そう誤魔化したカカシをイルカは別段疑うこともないようだった。それで、とイルカは途切れた話を続けだした。 かすかに上がった彼の眉は、また定位置に戻りなだらかな稜線を描く。 ‥‥よく動くネェ。 今カカシに見せられているのは、彼の微かな憤りを表すように寄せられた眉と、少し尖った唇。相づちを打ちながらまたカカシの視線はイルカの眉に引き寄せられた。 勿論男の顔を鑑賞する趣味は無いが、ふとした時にイルカの顔を見ている。 表情豊かと評しても差し支えのないイルカ。彼は喜怒哀楽を鮮やかなまでに、何の衒いもなくまざまざとカカシに見せつける。 それでも。 その中でも、彼のしっかりとした形を描く確かな眉が彼の表情のなかで際立って見えるのはカカシだけだろうか。 眉根を寄せる。 開く。 曇らせ、跳ね上げる。 彼の小さな気持ちの揺らぎが眉に現れるを知ったのはいつだろう。 言葉は閉ざされることもあり、偽りを述べることも容易い。 いつも強い光を放つ瞳は、その強さ故こちらを跳ね返すこともままある。 でも。 跳ね上げられた彼の眉を見れば、彼の気持ちの動きが掴めるような気がしたから。だからまた彼の顔を‥‥。 「カカシ先生」 どうしました? つまんない話し、ちゃいました? 重ねてイルカに問われた。それに首を振りながら、 「イルカ先生に見蕩れてたんですヨ」 そう軽口を叩けば、イルカは態々カカシに見せつける為に嫌そうに眉を顰めて、 「そうですか」と素っ気無く返してくれた。だがそれも長続きせずに、 「そうやって女口説くんだー」と暢気に笑い出した。 伸びやかに開いて行く眉根に小さく気持ちが抉られた。 ‥‥その眉を見続ければ、もっとアンタのことが分かるのかな? 本当はイルカの眉がずっとなだらかなままであればいいと、そう思ったなどとは口には出せないが。 目は口ほどにとは言うが、この人の眉は口ほどに物を言うと思った。 end |